木質バイオマスの問題の所在ー勉強部屋Zoomセミナー22年度第1回報告(2022/8/15)

7月30日勉強部屋Zoomセミナー第1回を、ゲストに、元林野庁長官、(一社)日本木質バイオマスエネルギー協会JWBA顧問加藤鐵夫氏をむかえて開催。「木質バイオマスのカーボンニュートラルに関する問題」につい意見交換をしました。

(開催のいきさつ)

再生可能エネルギーを原料にした電力の拡大を図るため、再生可能電力を消費者に高く買ってもらうという固定価格買取制度FITシステム

その中に木質バイオマス原料を組み込んだのはよいんですが、海外からの輸入原料に頼る発電所がたくさん認定され、バイオマス燃料を燃焼させた場合に発生する二酸化炭素の評価方法など、議論が錯綜し、石炭より悪い輸入木質バイオマス??

加藤さんは、議論の整理が必要だ!としてバイオマスエネルギー協会のサイトに「木質バイオマスエネルギー利用に関する懐疑論について」といった論説を公表してきました。

今回は、その内容を説明いただいて、議論をしたいとう趣旨でゲスト出演をお願いし、実現しました。

加藤さんから、「欧州のある報告書に記載している数字(24種類の木質バイオマス供給例のうちうまくいっているのは5種類)が一人歩きしているがその内容がどんなものなのか紹介してほしい」、というリクエストがあり、すこし勉強してプレゼンしました。

ということで、今回のセミナーでは、加藤さんの「木質バイオマスの懐疑論について」、藤原の「EUにおける木質バイオマスを利用したエネルギー生産(Joint Research Center (JRC)、EU共同研究センターの報告)について」という二つのプレゼンがあったのですが、後者は別途説明する(「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」)として、ゲストのプレゼンとそれに関する議論を中心に、ご紹介します。

(木質バイオマス懐疑論について)

加藤さんのプレゼンデータはこちらにおいておきますが、藤原の責任でつまみ食いします。

「懐疑論」が広まっている中で、JWBAで意見を言うべきということになり、情報発信は始まる

論点は二つある。
木質バイオマスを燃やすことが気候変動対策に本当になっているの?(基本的な問題点に関する本質論
燃料の生産過程、エネルギー効率、輸入バイオマスの問題点などおかしいのでないか?(具体的な作業過程での問題点=実体論
ここでは、主として本質論をとりあつかいたい。
①CO2が増えたのは化石資源をつかったから、②産業革命前は地上部で循環し、木材を燃やしてきたが問題は起こらなかった
懐疑論のサンプルとして、グローバルネット誌3月号にのった、「石炭より悪い輸入木質バイオマス~森林保全による炭素固定の重要性」(プリンストン大学 上級研究員ティモシー・D・サーチンジャーさん)(以下「サーチンジャー記事」といいます)を取り上げます。
タイトルからわかるように、「石炭より悪い」というのだから、本質論を議論している趣旨だが、
その次に「輸入木質バイオマス」という言葉があり、輸入に目をむけた実体論になっている
整理が必要!
サーチンジャー記事は「2050年」という特定な時点を念頭において、議論していることが大切なポイント

「木質バイオマスの燃焼により生じるCO2は、伐採された森林が復元し、それを吸収する、が、そのためには、長期間、例えば50年以上の時間が必要。」

間に合わない!!
上記に関する加藤コメント以下の通り

「日本・各国ともに、森林の発揮すべき多様な機能を持続させるために、一定地域を単位として森林計画が樹立」している
「このような「面的に森林を捉える」考え方」が大切」

「面的に捉えられる成長量の範囲内で伐採されるとすれば、面的な範囲にある他の森林により吸収されている」

その意味では、吸収に大きな時間的なずれはない!
また、サーチンジャー記事は、同じく「2050年においてCO2排出量を実質ゼロにしようとしていること」から、

『森林を伐採しなければ森林は成長しCO2を吸収するので2050年には、CO2をより吸収する。

つまり、森林は伐採せずそのまま放置して、吸収源として取り扱うことが2050年のCO2排出量の削減にはベスト。

という主張になる
上記に関する加藤コメント以下の通り
一定の成長期間を過ぎ成熟期を迎えると加齢とともに吸収量が減少→最終的に、成長しない、成長量が見込めない状態になる
そのため、森林管理としての間伐や、森林の若返りとしての主伐を実施が必要!
そのうえ、伐採された林木が、木材として建築材になり、木造建築になれば、それ自体で CO2の貯蔵が継続されるとともに、それが鉄やコンクリートの使用を減少させるとすれば、それらによるCO2の排出を抑制する効果を発揮する

伐採すると良いことがたくさん!!
ここまでをまとめてみると

【基本論では】
木質バイオマス利用に関する議論は、①長期的な時間軸と ②面的広がりを意識して論じるべき
その視点で見れば、エネルギー利用も含む木材利用は、大気中のCO2の増加につながらず、更には、化石資源の利用から発生するCO2の発生を抑制する代替効果を有するものでポジティブ(良いこと)であるはず

【実体論では】
森林の取り扱いで、三つの点が大切(左の図)
基本論をはなれて・・・

木質バイオマス燃料を供給する過程の加工・流通等には、軽油やガソリン等のエネルギーが使用され、各段階でCO2を排出

これら化石資源の利用は極力抑制することが必要

LCAにおけるGHG排出量の問題: 化石資源の利用や再生可能エネルギー等の全てに関わる問題であり、できるだけデータを公開し、国民が判断できるようにしていくべき!!
加藤コメント全体のまとめ

地球温暖化防止は、大量生産、大量消費を前提とし、効率が優先されるこれまでの大都市集中型、エネルギー多消費型の社会自体を変える必要
その対極となる分散型社会に変革していくためにはそれぞれの地域で木質バイオマスエネルギー利用が推進されるべき

木質バイオマスエネルギー利用は、各地域にある資源である木材を使うとともに、エネルギーの自立化、地域経済化を図ることを促し、燃料の生産供給、利用システムの運営、森林の整備等として雇用の場にもなる
 
適切な木質バイオマスエネルギー利用の推進を図るべき

(議論をするときの分かりやすい注意点)

基本論議と実体論は分けて議論をしましょうね!
基本論議をするときは、長期的な時間軸と面的な広がりを意識することが大切!!

何億年かけて堆積してきた化石資源を取り出して排出するCO2の話と、今後吸収される木質バイオマス燃焼ののCO2が、2050年カーボンニュートラルという短期決戦・非常事態認識で、混乱が生じているので、時間軸をしっかりして議論しましょうね。

分かりやすい話でした。

が、気になる点も。時間軸に対して、面的な広がりの話は、少しわかりにくかったです。

「面的に捉えられる成長量の範囲内で伐採されるとすれば、面的な範囲にある他の森林により吸収されている」ので、吸収に大きな時間的なずれはない?

どこまでの広さの面的な吸収を考えるのが合理的なのか?森林計画の策定区域、流域、国、地球?

加藤さんからは、「森林管理をどの範囲で考えるかは森林計画学の需要なテーマ。我が国では流域がベースとなっている。それぞれの国や地域で(森林関係者が)考えていること」と説明がありました。

加藤さんのような森林関係者の思いと、地球上の危機管理をどうしていったら、という、その他の多くの人たちの思いが、すれちがっている、面があるかもしれませんね。(回収期間のはなしは、先ほどふれた欧州の報告書に関係するので、別途報告→「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」)

いずれにしても、加藤さんが言われるように、基本論議と実体論議を二つにわけて、しっかり議論していきたいと思います

(原料供給過程のGHGと輸入バイオマス)

トークディスカッションタイムで、加藤さんのプレゼンの最後の方にある、二つの大切なテーマについて聞きました。

一つはLCAにおけるGHGの排出量問題。バイオマス燃料の供給過程でGHGがでるのは特に輸入バイオマスの問題点で、ウッドマイルズフォーラムなどをベースで活動してきた私にとって、近くのバイオマスは大切な分野で、いままでの追いかけてきました。「バイオマス・バイオ燃料の持続可能性」(2008/2/10)

いよいよ日本のFIT制度も、「それぞれの行為でGHGの発生がどのようになっているのかを 明らかにし、それらによるGHG発生を規制していくこと」になってきましたという説明。大切な取組なんで頑張ってください!

この話は輸入バイオマス問題の重要な視点で、輸入だから駄目だとは言えない(本質論)、輸入問題にどんな問題があるという議論(実体論)をしていかなければならない、という説明が。

関連して、JWBAが昨年発表した、大切な報告書「木質バイオマス燃料利用環境評価・効率化調査報告書 2021年度」紹介がありました。

(熱利用の方向は)

それから、最後のスライドの、熱利用の方向性について、ご質問すると・・・
「温水利用について言えば、いまよく使われている石油ボイラーを木質バイオマスボイラーに置き換えるだけでは、うまくいかない。技術基準を明らかにする事が必要で、JWBAで今回マニュアルを作成した。」という説明。

近日中に公開されるんだそうです。お楽しみに。

そこで、これもふくめてJWBAでは熱に関する議論するプラットフォームなど、を作っていくんだそうです。

二つとも、JWBAの活動の紹介になりました。

(会場からの質問)

皆さんの質問に答えて、①小型バイオマスは燃料の質の問題がクリアしなければ、②国産材バイオマス燃料の供給能力の見通し、をどう公表していくのか、③林業のGHG排出の把握など、全部加藤さんに答えていただきました。

いただいた、質問リストは「勉強部屋22年度Zoomセミナー第1回Q&A」に掲載しました

(森未来と連携)

今回から素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としました。

zoomの設定とか、皆さんへの案内、アンケートの回収など、大変お世話になりました。

持続可能な森林づくりをメインのコンセプトにした、ビジネルの可能性はどんな方向?興味深いですね。

今後ともよろしくお願いします

(関連ページご案内)

質疑によせられた項目を掲載します。「勉強部屋22年度Zoomセミナー第1回Q&A」
それから、私のプレゼンの紹介ページ「懐疑論の元になった報告書?EUにおけるエネルギ―生産のための木質バイオマス利用」こちらも見てくださいね

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