今,日本の森林・林業政策として何が求められるか?ー森林林業基本計画策定作業に関連した林業経済学会の特別セッションから(2025/12/10)

林業経済学会2025年秋季大会が11月29-30日滋賀県立大学で開催され、私は久しぶりに30日出席しました。

全体像については例年のとおり追ってご報告しますが、全体のプログラムをみて、特別セッション「今、日本の森林・林業政策として何が求められるか?」という興味深いセッションがあったので、情報収集しご報告します。(私が出席した前の日だったので出席できず)

趣旨は大会の掲載ページに記載されている来年の森林林業基本計画改定作業を念頭において、日本の森林・林業政策において望まれる方向性について,現地調査や統計解析等に基づく研究成果を募り,学術面から発信すること。10人の報告者が口頭発表を行っています。

別途全体をフォローしますが、このページでは、冒頭の主催者の立花京都大学教授・林政審会長の趣旨説明、一番案最初のプレゼンター、林野庁森林・林業基本計画検討室長吉川正純氏の報告を中心に紹介します

日本の森林・林業・木材政策の基盤となる、5年に一回の計画策定過程における、官学の連携がどのように発展しているのか?そして、今回の計画の課題はなにか?作業責任者の意見や、市民(勉強部屋の?)期待など・・・

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((特別セッションに関する趣旨説明))

イントロを説明された立花さんからプレゼンデータをいただいたので共有します→特別セッションに関する趣旨説明

大切な情報なので、資料の内容をすべて紹介プラス、当方でネット上の情報を加筆します。

(森林・林業基本計画の位置づけーイントロ)

〇森林・林業基本法
ー・第1章総則
一第2章森林・林業基本計画
ー第3章森林の有する多面的機能の発揮に関する施策
ー第4章林業の持続的かつ健全な発展に関する施策
ー第5章林産物の供給及び利用の確保に関する施策
—第6章行政機関及び団体
ー第7章林政審議会
〇基本法とは? (参諭院法制局HP「基本法」
—国政に重要なウェイトを占める分野について国の制度、政策、対策に関する基本方針•原則・準則・大綱を明示したもの
ー国の制度・政策に関する理念、基本方針を示すとともに、それに沿った措置を講ずべきことを定めている( 「親法」として優越的な地位

ということで、このプロセスは日本の森林ガバナンスにとっても重要な動向ですよ

(林業経済学会における森林林業基本計画関連の活動の歴史)

 時期  イベント名 内容  備考 
 2006年9月27日  研究会Box「新しい森林・林業基本計画を考える」@森林総合研究所大会議室 報告:藤江達之氏・本郷浩二氏(林野庁計画課)
コメント:白石則彦氏(東京大学)コメント:駒木貴彰氏(森林総研)
ー座長:堀靖人氏(森林総研)議論の概要とまとめ
記録(論考)を『林業経済』59(11) に掲載(2007 年) 
 2011年6月29日  研究会Box「新しい森林・林業基
本計画を考える」@森林総合研究所大会議室
 ー報告①:本郷浩二氏(林野庁計画課
ー報告②:伊藤幸男氏(岩手大学)
—座長·駒木貴彰氏(森林総研
まとめ:立花敏氏、駒木貴彰氏
 ・記録(論考)を『林業経済』64(6)に掲載(2011年)
 2015年10月21日  森林・林業・木材関係学会と林野庁の懇談会@ 林野庁A・B会議室  •日本森林学会(正木隆氏・堀野員ー氏)、日本木材学会(鮫島正浩氏•恒次祐子氏)、林業経済学会(古井戸宏通氏・立花氏)、森林計画学会(白石則彦氏・中島徹氏)、森林利用学会(上村巧氏)、日本建築学会(中村勉氏・浅野良睛氏・外岡翌氏)、土木学会(石田修氏・沼田淳紀氏)の7学会  森林・林業基本計画の変更に際して、初めて開催された会と林野庁との懇談
 2015年12月22日  研究会Box「森林・林業基本計画変更の方向性を考える」@筑波大学東京キャンパス 報告①上練三氏(林野庁計画課)
•報告②.古井戸宏通(東京大学)、立花敏(筑波大学)
•座長:土屋俊幸(東京牒工大学)
 •上氏の論考を『林業経済』69(6) に掲載(2016 年)
  •2020年11月9日  研究会Box「『森林・林業基本計画』変更の方向性を考える」@オンライン(Zoom)
報告①:石井洋氏(林野庁森林・林業基本計画検討室室長)
一報告②: 三木敦朗氏(信州大学)
・報告③ 奥山洋一郎氏(鹿児島大学)
質疑応答
総合討論
・座長:藤掛一郎氏(宮崎大学)
記録(論考)を『林業経済』73(11)に掲載(2021年)
ー林業経済学会広報渉外担当(立花・山下)の企画運営
 2025年6月27日~9月3日 関係学会が意見提出 ・一般社団法人日本森林学会・一般社団法人日本木材学会・林業経済学会・森林計画学会・森林利用学会・一般社団法人日本生態学会・一般社団法人日本建築学会・公益社団法人土木学会が意見提出
 林野庁サイトに90企業団体の意見把握結果掲載(だだし:関係学会の御意見は調整中のため掲載していない(12/9現在
 2025年9月4日  ・林業基本計画の変更に向けた意見交換  •日本森林学会(丹下健氏)、日本木材学会(•恒次祐子氏・秋山拓也氏)、林業経済学会(平野悠一郎氏・松本美香氏)、森林計画学会(山本一清氏・溝上展也氏)、森林利用学会(鈴木保志氏・岩岡正博氏)、日本生態学会(村岡裕由氏・森章氏)・日本建築学会(五十田博氏・磯部孝行氏)、土木学会(佐々木貴信氏・村田拓海氏)の8学会  
  2025年11月29日  林業経済学会2025年秋季大会特別セッション@滋賀県立大学
発表①:吉川正純氏(林野庁森林·林業基本計画検討室室長)
・②会員8名及び非会員1名(元林政審議会委員、ご招待)
・座長:八巻一成氏(森林総研•関西)、立花敏(京都大学)
 • 2025年秋季大会「発表要旨集」

以上立花さんからいただいた、過去の20年にわたる基本計画策定過程の官・学のコミュニケーションの過程、です。ネット上の情報を当方で少しケーションおプレゼン資料を中心に、若干当方でネット上の情報を加筆しました

ということで、このセッションのテーマは、来年8月に改定を予定されている次期森林林業基本計画策定に関し、学会内部で議論を発展させようという趣旨であることがわかりました。

内容の分析などをすべきかもしれませんが・・・また今度

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8人の登壇者の報告については、追ってご紹介するのるとこととし、ここでは、第一番目の発表者林野庁担当室長吉川正純さんのプレゼンいただいたので紹介します。(公開してよいですか?とお聞きしたら、すでに林政審などで公開している情報なので「いいですよー」といわれました)

来年の基本計画改定に向けて事務局が検討している現時点での要約版ですー。

((森林・林業基本計画の変更に関わる情勢と検討の方向性))

以下の3部構成16ぺージ、

Ⅰ イントロ2枚 (1 現行森林・林業基本計画の概要、2 審議の進め方、日程(案)

Ⅱ 背景説明5枚 (3 森林・林業の動向4 木材産業・需要の動向、 5 森林の多面的機能発揮への期待の高まり、 6環境に配慮した企業経営へのニーズの高まり 7 災害の態様の変化) 

Ⅲ 次期計画の内容検討9枚 (8 森林の集積・集約化の推進、9 再造林の推進、 10 林業労働力の確保、 11 木材利用の拡大、12 森林資源の循環利用の推、 13 持続可能な木材生産に向けた対応方向、 14 望ましい林業構造、 15 スマート林業技術を実装した林業の将来像、 16 森林を活用した山村振興

(1 現行森林・林業基本計画の概要)左図

 令和3年6月に閣議決定された現行計画においては、森林を適正に管理し、林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、2050年カーボンニュートラルを見すえた豊かな社会経済を実現することとし、以下の5つの柱の施策に取り組むこととしている。

(2 審議の進め方、日程(案))右図

 現行基本計画は、令和3年6月15日に閣議決定されたものであり、令和8年夏頃までに変更することが必要
 このため、下記日程(案)により検討。このほか事業者や学会等からの意見の聞き取りを実施。(これは9月5日)もう終わっています)

(3 森林・林業の動向)(左図)

 人工林の6割が50年生超の利用期を迎えており、7年後には8割が利用期を迎える見込み。国産材供給量は着実に増加し、その8割が主伐材。今後、さらに主伐が全国に広がる可能性が高いが、人工造林面積は近年横ばい。
 人口減少を迎える中、林業従事者は現在4.4万人で、特に育林従事者の減少が著しい。一方、若年者率や女性の割合は横ばいで推移。林業労働災害発生件数は年間1千件超で、近年は横ばいで推移。

4 木材産業・需要の動向)右図


 国産材需要は燃料材を中心に増加。丸太価格及び山元立木価格は昭和55年をピークに減少し、近年横ばいで推移していたが、令和3年の輸入木材の不足により上昇。建築用材等の木材自給率は年々増加し、令和5年には5割超。
 量的には、建築用木材需要の大宗を占める木造住宅について、新設着工戸数が長期的に減少しており、今後もこの傾向が継続する可能性がある。また、質的には、嗜好される建築様式の変化やプレカットの普及等により、「見た目重視」から「寸法安定性重視」へと変化。
 一方で、CLTや耐火部材等の構造部材や高付加価値な内装材等の技術開発により、中高層建築物や非住宅分野、リフォーム等での木材利用が進展。

(5 森林の多面的機能発揮への期待の高まり)

 森林は、土砂流出の防止などによる国土の保全機能、水資源の貯留などによる水源の涵養機能、木材やきのこ等の林産物を産出・供給する木材等の生産機能など、国民が安全・安心な生活を送るために必要な多面的機能を有している。
 特に、災害が激甚化・頻発化する中、国土保全機能への高い期待が寄せられているほか、「パリ協定」や「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の採択等により、地球温暖化防止や生物多様性保全への社会的関心が高まっている。こうした森林の有する多面的機能を総合的かつ高度に発揮させるため、多様な森林の配置に向けた森林整備を推進することが重要。

(6 環境に配慮した企業経営へのニーズの高まり)右図

 国際的に気候変動、生物多様性に対する関心が高まり、企業に対し自然関連の情報開示を求める動きが拡大。我が国でも、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によりサステナビリティ開示基準や気候関連開示基準が公表され、法定開示への段階的な適用拡大が進む見通し。
 「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」(SHK制度)に加え、「排出量取引制度」の本格稼働や、建築物ライフサイクルアセスメント(LCA)の制度化など、サステナビリティに関する動きが進展。

(7 災害の態様の変化)左図

 降雨形態の変化などにより被害が激甚化。今後の気候変動を見据え、森林の土砂流出防止機能・洪水緩和機能の維持・向上のための森林整備・治山対策や被害を受けにくい強靱な路網整備を確実に実施することで、引き続き国土強靱化を推進することが重要。
 人口減少や少子高齢化に伴い、労働力人口が減少する中、森林土木技術者の確保・育成とともに、省力化・デジタル化を進めることも重要。
 近年、焼損面積が100haを超える規模の林野火災が増加。特に被害が甚大だった大船渡市林野火災を踏まえ、今後の林野火災予防対策を検討。

(8 森林の集積・集約化の推進)右図

 我が国の森林保有構造は、林家数の約9割を保有面積10ha未満が占め、小規模・零細。また、森林所有者の世代交代や不在村化等から、所有者の特定が困難な森林、所有者が引き続き管理をすることが困難な森林が存在。
 再造林に責任を持って取り組む林業経営体が伐採から保育に至る施業などをできるよう、森林の集積・集約化を推進することが重要であり、令和7年に成立した改正森林経営管理法を適切に運用する必要。また、林地では地籍調査が遅れており、森林の境界明確化を進める必要。

(9 再造林の推進)左図

 育林経費のうち7割を占める造林初期費用の低減に向け、一貫作業や低密度植栽等の省力化造林の割合は年々増加。

 林業適地における主伐の実施と主伐後の再造林の確保のため、効率的施業森林区域の設定を推進。
 花粉症発生源対策として、スギ人工林を伐採し、花粉の少ない苗木への植替え等を推進。再造林に花粉の少ない苗木等が利用できるよう、生産と利
用の拡大が重要。

(10 林業労働力の確保)右図

 林業への新規就業者数は、毎年約3,000人で安定して推移。新規就業者(緑の雇用)の定着率は全産業と比較して高いものの、更なる就業環境の改善
が必要。
 高性能林業機械の普及等も背景に、若者や女性等の就業者の就業環境は向上したものの、林業従事者の給与は全産業と比較して低い水準にあり、生
産性向上等を通じた給与水準向上に向けた取組が重要。
 労働災害発生率(死傷年千人率)は緩やかな減少傾向にあるが、依然として全産業中トップかつ平均の10倍と高水準。
 労働安全を確保するとともに、更なる生産性向上や省力化・軽労化を図るため、遠隔操作・自動運転技術やデジタル技術の開発・実装が重要。

(11 木材利用の拡大)左図

 木造率は、低層住宅では8割を占める一方、中高層住宅や非住宅建築物では1割未満と低く、更なる木材利用の拡大が重要。
 木造住宅においては、横架材など、国産材の利用割合が少ない部材における利用拡大が重要。
 木材輸出額は近年500億円程度で推移しているが、半分は丸太が占めており、付加価値の高い製品への転換が重要。
 新たな需要として木質原料の高付加価値利用に係る技術開発が進展しており、現場への普及・実装が重要。
 木材需要の約3割を占める広葉樹材は、国産材の高付加価値な製品用途への利用が少なく、放置された里山広葉樹等の活用が重要。

(12 森林資源の循環利用の推進)右図

 森林資源の循環利用を推進するためには、川上側では確実な再造林や生物多様性・林地保全に配慮した森林整備、川中側では、丸太の価値を最大化
する流通・加工、川下側では国産材の需要拡大等の取組を進めることが必要。
 樹木が伐採され、製品として需要者に届くまでには、多くの段階を経由。森林所有者(造林者)、林業経営体(伐採者)、流通業者、木材加工業者
等は、「木材」という資源の価値を分け合う共生関係にあり、共存・共栄できるような相互理解・共助関係の構築を目指すことが必要。

(13 持続可能な木材生産に向けた対応方向)左図

 環境に配慮した企業経営のニーズの高まる中、国産材について、輸入材や他資材との競争力を持ちつつ、主伐後の再造林の確実な実施による持続性が担保されることが必要。
 再造林意欲がわく立木価格を目指すためには、国産材の価値向上・需要拡大と、各段階の省力化・生産性向上、両者を繋ぐ木材サプライチェーンの効率化と情報共有を進めることが重要。

(14 望ましい林業構造)右図

 主伐・再造林が本格化する中、伐採から販売、再造林等の林業経営を行う権利を取得し、「長期にわたる持続的な経営」を目指すことが必要。
 特に世代交代等により森林所有者の山への関心が薄れていることから、森林所有者に代わって林業経営を担う主体の育成が重要。
 その際、各地域の実情に応じた林業経営を担っていくことが重要であり、そのために取り組むべきポイントを整理

(15 スマート林業技術を実装した林業の将来像)左図

 林業は自然条件下での人力作業が多く、低い生産性や安全性の改善が課題。伐採・搬出の生産性向上・安全確保や造林の省力化、森林管理から生産
流通全体の効率化には、AI等も活用したスマート林業技術の開発・実装や、導入に適した路網整備等の環境整備を推進する必要。

(16 森林を活用した山村振興)右図

 地域の特性を活かした林業・木材産業の成長発展や、木材供給にとどまらない森林の価値の活用を通じた山村と都市との地域間交流の拡大等により、山村地域の活性化を図り、国民経済の発展に繋げることが重要。
 近年では、都市住民の潜在的ニーズに対応した森林空間利用や、カーボン・クレジットの取引等を適正な森林管理へのインセンティブとして役立てる動きもみられ、こうした機会を捉え、山村地域の活性化に繋げることが重要。
 これを踏まえ、文化的サービスを中心とした森林の生態系サービスの提供・活用により、森林所有者に利益を生み出し、豊かな森林づくりにつなげる取組を新たに「森業」(もりぎょう)として推進。

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以上が、林業経済学会で報告された次期森林林業基本計画の策定過程の概要です。

すべて林政審での議論に基づいた内容なので、しっかりフォローしていなければならなかったのですが、学会にいって包括的な情報を入手するというのではすこし、さぼっていましたネ。ごめんんさい

(コメント1 グローバルな動向をしっかり踏まえて)

勉強部屋ンのキャッチフレーズ「地球環境の視点から、日本の森林と木材を考える」。 20年前の基本計画にSDGsがのったのも、勉強部屋のパブコメが切っ掛けです(「自慢話)。

今回の報告の背景説明、$5では「地球温暖化防止や生物多様性保全への社会的関心が高まっている。こうした森林の有する多面的機能を総合的かつ高度に発揮させるため、多様な森林の配置に向けた森林整備を推進することが重要」、$6でも「国際的に気候変動、生物多様性に対する関心が高まり、企業に対し自然関連の情報開示を求める動きが拡大」など重要な記述があります。

しっかりそれをふまえた計画が編成されるか注目です

(コメント2 森林資源の順かな利用持続可能な森林ガバナンスへのステップアップ)

$6 環境に配慮した企業との関係性などが重要なテーマとなりますね。森林のガバナンスをしっかりやっていく意味でも川下の環境志向とタイアップすることが大切です

関連して、現行計画$1と次期計画にむけての検討事項($8から16)を比べたリストを作成してみました。

$12 森林資源の循環利用の推進 $13 「持続可能な木材生産に向けた対応方向」の重要性がわかります

CW法が合法伐採確認木材のことしかいっていませんが、それだけでなく持続可能性な木材へのステップアップがこの機会に進むかどうか、注目点ですね。

林業経済学会の大会で頂いた重要な情報です。

今後の検討プロセス、勉強部屋でしっかりフォローしていきますので、よろしくお願いします

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