SDGs時代の林業の使命ー次世代の森林の在り方は?-勉強会第4回ZOOMセミナー報告(2023/2/1)

1月14日勉強部屋Zoomセミナー本年度第4回を、ゲストに、太田猛彦さん(FSCジャパン代表・東大名誉教授))をむかえ、「SDGs時代の林業の使命ー次世代の森林の在り方は?」というタイトルで開催し、FSCの将来と、次世代の市民とともに歩む森林の在り方を熱く語っていただきました。

「森林飽和ー国土の変容を考える」という著作(NHKブックスの売れ筋)があり、日本学術会議の会員で森林の多面的機能の評価などをリードしてきた実績(地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について(答申))のある太田さんの登場!たくさんの方にきいていただきまいた。

内容がたくさんで正確にご紹介することはむずかしいですが、わたしの理解する限りで、内容をご紹介します。

ご興味のあるかたは、いただいた115枚のプレゼンデータ本体と、当方で作製したタイトルリストをご覧ください。

((第1部 日本社会の発展(歴史)と森林の変遷との関係を通して森林管理の原則を学ぶ(森林飽和より)))

左はNHKブックスでこの10年間に一番うれた本の目次です。
題名は:「森林飽和」国土の変貌を考える
著者は:太田猛彦さん

(第1部前段:日本の森林の変遷ー過去の日本の森林は荒れ地だったのが激変)

お話の全体が、上記の本の内容でもありますが、第一部前半はみんなが興味をもった・・・日本の森林の変遷について、リアルな写真と浮世絵などで紹介です

写真にみるはげ山だらけの(明治時代の)日本(下の図)。

そして、下の図は写真はないが江戸時代の絵、広重の絵に出てくる山腹はマツ林(養分の少ない土地の証拠)(左)、関ヶ原の合戦図(右)「この時代から日本の森は貧弱だった」、津軽白神山地から伐り出された木材「すさまじい江戸時代の木材消費」(中)

日本は、農耕社会になる前、縄文時代には「森を利用したもっとも豊かな狩猟採取民族文明」(ジャレド・ダイヤモンド氏)と言われているそうですが・・・稲作が始まり、森林と木材を利用し3000万人(世界の人口の30分の1)がくらす豊かな日本は、森林資源を目いっぱい使っていた、が、里山は荒廃していた。

「荒廃のピークは明治時代」だそうです。

その後、治山・砂防・造林事業が進展、燃料革命・肥料革命 →「里地・里山システムの終焉」して、つまり「日本人が森から離れた」ともいえますね。
現代は、人工林の成長と里山林の回復し、「● 日本の森林は、何世紀にもわたる荒廃の時代から回復した」「●日本の森林は400年ぶりの緑を回復している」ということで、以上が「『森林飽和』の時代」といった背景です。

森林飽和の時代の森林も様々な課題を抱えていいます。

 <第1部前段:まとめ>

日本列島の森林状態は住民の生活によって左右され、また、住民の生活に影響を与えている!(歴史)
地下資源にたよる生活に変わったために、森林への負荷が一時的に減っている状態。

これから、どうする?

(第1部後段、森林と人間に関する「森林の原理」と森林の多目的機能をしっかり踏まえて)

日本学術会議は農林水産大臣からの諮問に答えて、2001年「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の評価について」という答申を発表したしました。森林分野の責任者は太田先生。そのその作成過程と内容の重要性を説明です。

題名にあるように諮問は「多面的機能の評価」が目的なのですが、答申作成過程で座長は、もっと基本に立ち返って、森林と人間に関する「森林の原理」からしっかり記述すべきと提案しました。

その結果の概要を示すのが、右の図です。

「人類が生存している地球上の現環境は、森林が地球上に初めて出現した約4億年前から、陸域に森林が存在することを前提として、少しずつ形成されたものである。」というサブ原理の第一番の「環境原理」のうえに、サブ原理2「文化原理」とサブ原理3「利用原理」があります。

その後国際的コンセンサスで公表された「国連のミレニアム生態系評価」とほぼ一致しています(前者が後者をリードしたとは言われませんでたが、実質はそうなんでしょう)

そして、三つのサブ原理にそって8つの多面的機能を提起しました。

そして、● 森林の多面的機能の持続的発揮に資する森林管理のために、以下のような森林の多面的機能の特徴を知ってほしい!!

 森林の多面的機能の特徴

〇多様性  ・・・きわめて多様な機能を持つ 
〇総合性   
・一つ一つの機能はそれほど強力ではない(機能の限界性)が、多くの機能を重複して発揮することができ、総合的に強力である。
・なお、他の環境の構成要素と複合して発揮される機能や、森林の中の異なる部分で作用が対立する機能もある。
・一つの機能の評価結果からその場の森林の存在そのものを評価することはやめたい
〇定量的評価が困難  ・・・近年、環境経済学が発展
〇階層性・・・多様な機能には管理上重視すべき順番がある

((第2部:地球環境史と人類文明の発展を比較して現代の森林管理を考えるー森林の多面的機能に関して、なぜ「生物多様性保全」や「地球温暖化防止」が最初に掲げられているのか?・・・考えたことがありますか?))

(農耕社会と現代社会を比較すると)

地球環境問題を分解すると二つの要素があります

①土地と水の利用の問題→生物多様性の創出、②地下資源の利用の問題→温暖化問題。

この二つを検討するために、農耕社会と現代社会を比較してみましょう。

右の図。

農耕社会は「現太陽エネルギー依存社会」

現代社会は、「地下資源依存社会」であり「古太陽エネルギー依存社会」です。

無限の成長が見込まれると思ったけれど、「地球容量(プラネタリーバウンダリー)の壁にぶつかり行き詰まる。」

(地下資源を使う意味を考えるー地上の資源・エネルギーを使う必要性がわかります)

私たちは地球の表面の“薄っぺらな空間”の中で活動していいます。

地球の内部(地下/岩石圏)は地球環境外で、地球環境の場とは地球表面の厚さわずか20ー30kmの薄っぺらな空間(対流圏+海洋)→ それが“生物圏”の空間です。

地球の環境容量とは“薄っぺらな空間”の環境容量(右図)

A人類文明発祥以前の森林環境史

①森林は徐々に大陸の内部に拡大し、気候を安定させた(左図)
②森林は大量絶滅を乗り越え、生物多様性を増大させた
③森林は炭素を固定し、それを地下に閉じ込めた

B人類文明発祥以後、とくに、産業革命後の森林(地球)環境史

❶人類は森林は徐々に縮小させた
❷人類は生物多様性を減少させた
❸人類は化石燃料やその他の地下資源を再び地上に戻した → 地球表面に二酸化炭素と廃棄物 (自然物でない) が蓄積

● これは地球環境系の共進化の方向に逆行している

(新しい森林原理)

右の図

持続可能な範囲で森林を積極的に利用することが、持続可能な社会づくりに貢献

以上を総括すると

・「木材を生産すること」そのものが“公益的”な機能(字義どおりの意味の)の発揮である と言える。
・「森林管理」の公益的機能(従来の意味の、すなわち外部経済性という意味の)の一つが木材生産=林業である。
・つまり、林業は森林の多面的機能の一つなのである。
・森林・林業基本法第2条の表現(森林整備の第一目的は“森林の多面的機能の持続的発揮”である)は適切である。
・公益的であるためには他の多面的機能を阻害してはいけない。

(FSCの活動の位置づけ)

木材利用を積極的にはかることが、持続可能な社会づくりに貢献するとして、そのことが、他の多面的機能を阻害してはいけけないという重要なコンセプトですで。

それを保証するのが「FSCなどの森林認証」です。(左図)

「FSCなど」ですから、左の図のコンセプトにはPEFCもはいっています。

それではFSCと他のシステム(PEFCなど)との違いは?という文脈で、三枚の資料(FSCの活動の特徴)を提示されました((右の図)

(他のシステムがやっていないでFSCがやっていることは)アトラジンなど水質汚染を誘発する(米国では認可されているが欧州では禁止されている)農薬の禁止、先住民の慣習法の保護、私有林でも審査結果の公表、など、・・・

こういうことをしているので、多くの小売店なで、FSC認証製品を優先する動きになっていて、マーケットアクセスが前進しているんですね。

以上がFSCジャパン会長としてのメッセージでした(最後のほうですこしだけ)。

((質疑の時間)

太田さんに藤原から3点質問しました

(質問1)ビッグビジネスの関係者が環境問題を切り口にして木材利用を進める動きがあるが、どのように評価していますか?

ESG投資(環境(E)・社会(S)・企業統治(G)に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)など社会にとっての企業の価値の大切さが普及してきたことが背景にあるだろう。

企業と社会の関係の議論が大きく始まったのは公害問題。周りから言われて「公害を出さないようにしよう」となった。

それが終わって「環境の時代」、そして「ESGの時代」になった。
だれから言われたから、環境貢献しよう、でもよいのだが、「環境貢献」が「片方(主流で)で実行していないので、別のところで森をつくろう」ではなく、自分のメインの製品がどのように環境貢献をするのか、あるいは「環境貢献を一番している製品が一番うれる」のだという方向に、頑張ってしてほしい。

生物多様性と温暖化問題の二つの重要性をふまえた、ESG投資が一般化してきて、その二つと森林の関係はみなわかってきた。

「木材利用の拡大」についてまではいっているが、その木材がどこからきたのかという核心部分のDD(ディユーデリジェンス)とかウッドマイルズとかなどまで、進んでいないともいえる。もう一歩進んでほしい。もちろん、森林認証もある。

(質問2)伐採跡地の再生がうまくいっていないみたいようですが、どのように考えますか。

「皆伐再造林」などといわれるが、学術的にみると、(造林学の先生などにきくと)「皆伐」という施業はない。森林の施業である用語は、「択伐更新」、「皆伐更新」など、森林の次世代をつくる「施業」であり、「その一環に伐採がある」という認識。

世界中の一般常識では、皆伐は皆伐更新施業の一部である。「皆伐再造林」というのはおかしい。人工林でも皆伐したっきりは「略奪林業」と世界中でいわれていると、考えてほしい。

(質問3)地球環境史の大きな視野から見て「原子力の利用」はどのように考えていますか?

地下資源がだめだといっても、地下資源を直ぐ使わなくするのは無理だし、他方で温暖化対策いそながければならないので、世界全体では原子力に一定程度たよるのはしかたない、ことかなと思う。

ただ、日本のように地震の多いところでは原子力発電するのはやめたい。世界中には1億年たっても地震がないところがあり、また、その周り30キロ圏にだれも住んでいない場所もある。そういうところに原発を建設し、日本は技術を輸出しその建設に協力する。その代わりに再生可能エネルギーが整備されるまで、もう少し化石燃料を効果的に使わせてもらうという道なのでないか?(世界では戦争が収まらないので、無理かもしれないが)

以上です

(参加者からの質問)

あと、皆さんから沢山の質問がきていたので、当日答えられなかったものも含めて整理しています。

SDGs時代の林業の使命ー次世代の森林の在り方は?-勉強会第4回ZOOMセミナー報告Q&A

皆様どうもありがとうございました!!

ー---

報告は以上です。

地球環境の歴史の大きな視点から、今の森林の判断基準(原理)を考える。持続可能な森林経営のための勉強部屋というサイトの中心にすわる、素晴らしい時間でした。

YouTubeの動画も閲覧できるので、ご希望の方はこちらから申し込んで下さい→問い合わせ窓口

・・・・

(森未来と連携)

前回から素晴らしい内容を多くの方の共有できるように、持続可能な森づくり向けたビジネスネットワーク構築を進めている株式会社森未来さんと、共催企画としました。

zoomの設定とか、皆さんへの案内、アンケートの回収など、大変お世話になりました。

持続可能な森林づくりをメインのコンセプトにした、ビジネルの可能性はどんな方向?興味深いですね。

今後ともよろしくお願いします

 konosaito3-15<zoommt22-4threpo>

■いいねボタン